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複雑な建築確認申請をスピード化したSketchUp

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業界に先駆けて建築にコンピューターテクノロジーを掛け合わせてきた寺澤任弘氏が、大規模プロジェクトや建築設計業務、そして建築確認申請においてどのようにSketchUpを活用したかについてご紹介します。

規模建設プロジェクトにおけるSketchUpの使用例

大規模建設プロジェクトのコンペにおけるSketchUpの使用例(設計:KMG+ARCHITECT 5)

日本・東京

人間の五感、第六感、そしてコンピューターテクノロジーの力を活用した「第七感」をインスピレーションに、住宅を中心とした建築設計を手掛けるARCHITECT 7/寺澤一級建築士事務所。認定トレーナーとしてのSketchUpのスクーリング事業、大学講師としてのCAD BIM教育にも携わる代表建築家/一級建築士の寺澤任弘(てらさわ たかひろ)氏にお話を伺いました。

ARCHITECT 7/寺澤一級建築士事務所 代表建築家 寺澤任弘氏

ARCHITECT 7/寺澤一級建築士事務所 代表建築家 寺澤任弘氏

インタビュー

さまざまなワークプロセスで活用

建築の世界に入られたきっかけや仕事上で大切にしていることを教えてください。

私は美大の建築学科を卒業した後に建築分野のソフトウェア開発会社へ入社し、その後CAD開発事務所、建築設計事務所 ARCHITECT 5で20年の勤務を経て、2010年にARCHITECT 7/寺澤一級建築士事務所を設立しました。現在はSketchUpをメインとした仕事に従事し続けています。

建設業界に興味を持ったきっかけは、1970年の大阪万博のパビリオンのひとつだったイサム・ノグチの「水の彫刻」との出会いです。当時小学4年生、10歳だった私はその造形に感銘を受け、当時好きだった美術と数学を活かせる世界へと導かれていきました。

建築の世界に入ってからずっと仕事上で大切にしていることは、お客様の生のご要望をどう実現するか試行錯誤し、最高の形に収束させることです。建築物は単品生産で、与えられる敷地や周辺環境、求められる機能はプロジェクトごとに異なります。また最初から決まった答えはなく、たくさんのプロセスを経ながら最終決定する流れです。その各プロセスでSketchUpを活用し、プレゼンテーションを重ねていきます。

SketchUpを導入した理由と導入後の変化について教えてください。

SketchUpは前職時代より活用しており、拡張性の高さやモデリング機能の使いやすさに惹かれて導入した経緯です。単に空間の中に一本の線を引いていくだけで立体がどんどんできあがっていくことに大きな魅力を感じました。

また、実際に活用していく中で感じるのはSketchUpの堅牢性です。通常、プロセスごとにモデリングを重ねていくと非常にデータが重くなってしまうのですが、SketchUpでは非常に軽いデータを作成できます。実際にある物件では、構成要素がたくさんある10階建てのオフィスビルを設計しましたが、僅かなデータ量でプロジェクトを進行できました。SketchUpの堅牢性を活かしながら工夫を重ね、一つひとつのノウハウを蓄積しています。

10階建てオフィスビルのSketchUpでの3次元モデル

10階建てオフィスビルのSketchUpでの3次元モデル(共同設計:ARCHITECT SHIP)

10階建てオフィスビルの実際の写真(共同設計:ARCHITECT SHIP)

10階建てオフィスビル周辺をSketchUpでモデル化

10階建てオフィスビル周辺をPLATEAUデータを利用しSketchUpでモデル化(共同設計:ARCHITECT SHIP)

SketchUpのどのようなところに面白さを感じていますか?

SketchUp Extensionsと呼ばれるプラグインが豊富に用意されていることです。たとえば、曲面を多用するモデリングで活用しているのはVertex ToolsSUbDです。また、設計変更時に柔軟な対応をしながらモデリングするうえでProfile Builderもよく活用しています。Google Earth 3D タイルを取り込めるPlaceMakerは、敷地周辺の環境や地形を調べて配置していくうえで非常に便利です。

大規模建設プロジェクトのSketchUpモデル

大規模建設プロジェクトのSketchUpモデル

大規模建設プロジェクトのコンペのSketchUpモデル(設計:KMG + ARCHITECT 5)

SketchUpのBIM的な活用手法としてはどのようなものがありますか?

これは大学でも教えていることですが、SketchUpをBIMライクにワークプロセスに取り組むことも有用です。具体的には、SketchUpを活用して形を作りながらグループ化・コンポーネント化し、タグ分けしながらどんどん再構築していくという流れです。それをオープンソース化しておくことで、誰でも3Dモデルを図面化したり正面から見た等角投影の立面図を作成したりといった使い方が可能になります。

まずは分類化した形をいくつか作り、シーン設定をしておくと、レイアウトでそのシーンを呼び出して立面図や平面図に変換したり、図面の表現として必要になる寸法線や文字、通り芯といったものを可視化したりすることができます。そのため、SketchUpで作成したモデルをベースにすると、プロセスごとに求められるものを見極め、それらをコントロールしていくといった作業が可能です。

SketchUpを活用すると、どこまで時間をかけてどこまで細かいところを作るか、といった自由なコントロールが可能です。そのため、必ずしも同じワークプロセスで使用しなければいけないといったこともありません。たとえばイレギュラーな事態が発生して新しい要素を追加しなければならないときも、SketchUpなら対応が可能です。毎回工夫を重ねながら進化し続けられるのがSketchUpの強みだと考えています。

3次元→2次元への変換で建築承認も容易に

SketchUpを活用したプロジェクトの事例について教えてください。

私はSketchUpをすべてのプロジェクトで100%使用しています。基本設計フェーズ、実施設計フェーズ、あるいは企画の段階といったすべてのフェーズで活用することが可能です。SketchUp自体もアップデートを重ねており、レイアウトという付属ソフトも機能アップしてきていることが活用を後押ししてくれています。

確認承認のプロセスにおいてどのようにSketchUpを活用していますか?

3次元のモデルから2次元図面を起こすという使い方もよくしているのですが、これは大きなBIMソフトを使用すると非常に手間がかかります。SketchUpではモデルをコンポーネント化しておくことで名前をつけて保存でき、保存したファイルをいつでもリロードすることが可能です。

こうした使い方をよく活用しているのは、建築確認申請を行うときです。現在の日本の確認申請の場面では、2次元データでの提出が求められます。これまで2次元図面化してきた資産がたくさんありますので、申請書に書き込まなければいけない凡例などは、すべてLayoutのスクラップブックに取り込んでレイアウトするようにしています。

SketchUpでモデルをコンポーネント化

SketchUpでモデルをコンポーネント化

SketchUpのLayout機能で2次元図面化

スクラップブックの例

凡例の具体例は、例えば、日本の建築法規上で必要な防火戸の設定や区画設定のライン付けなどです。2次元資産が残っていないケースでも、3次元から2次元に簡単に起こせるため、非常にスピーディーに作業ができます。

ゆくゆくは確認検査機関側も3次元モデルをそのまま見てくれるようになると思いますので、そうなった際も当然、SketchUpの機能が活きてくるでしょう。

コミュニケーションの場でのSketchUpの活用事例について教えてください。

SketchUpはコミュニケーションツールとしても優れています。例えば打ち合わせ時にお客様からのフィードバックをいただくと、リアルタイムで変更点などを反映できます。かつては一度持ち帰り、モデリングし直して次の打ち合わせでプレゼンテーションするという流れをとっていたので、非常に画期的です。

SketchUpを活用して、案をその場で変更・可視化(共同設計;新井建築設計・計画+arai1992)

実際のプロジェクト例としては、遠方の方とZoomで打ち合わせをしながら、その場でどんどん間取りや構造を変えていく、といったものがありました。

また、出来上がったモデルをお客様にお渡しするという場面でも、これまではセキュリティ上ためらいがちでしたが、SketchUpのデータであれば、Trimble Connectを使用してクラウド上にアップロードしてシェアリンクをお渡しするという手法が取れます。お客様側でも通常利用されているPCからブラウザをとおして確認いただけるため、やはりコミュニケーションツールとして非常に有用です。

Trimble Connectでリアルタイムにデータを共有、レビュー、可視化

Trimble Connectでリアルタイムにデータを共有、レビュー、可視化

他ツールとの互換性についてはどのようにお考えですか?

SketchUpの周辺にはさまざまなレンダリングソフトがあり、その多くがSketchUpのSKPデータを読み込めます。

この時、バージョンの違いを確認したり、渡すデータを作成するうえでは、テクスチャー情報が伝わるかどうかや、貼り付けたマテリアルが表と裏のどちらに付いているかなどを確認しながら進めています。

逆にデータを受け取る際にも、SketchUpはさまざまな種類のデータに対応しています。そのため、まずSketchUpで2次元データも含めて読み込み、それをベースにさまざまな形を作るといった使い方が可能です。

たとえばPDFでしか受け取れなかったケースでも、CADデータに変換したものをSKPに読み込んで形を作ることができました。

他のツールとの互換性の良さも、SketchUpの大きな魅力だと思っています。

第七感のインスピレーションとしてSketchUpを活用する展望

SketchUpを活用した今後の貴社の展望について教えてください。

この仕事は、お客様がいないと成り立ちませんし、どんなオーダーが来るのかもわかりません。ただ、これまでSketchUpを使って地道に積み重ねてきたノウハウを活かせるのであれば、どんな分野・どんな物件にも挑戦したいと考えています。

これまでは個人住宅や事務所、集合住宅といったものを中心に手掛けてきましたが、今後もし可能であれば、ホールやスタジオ、そして公園といった公共性のあるものをSketchUpで作ってみたいです。

AIが建築の世界にもたらす影響とSketchUpが果たすであろう役割について教えてください。

AIの登場によって、我々設計者に対して何が出てくるかわからないと感じる一方、インスピレーションの源になるかもしれないという思いもあります。アイデア出しにはどんどん加担してくれると思いますが、その中から選択するのはあくまで人間です。だから今後はプロンプトエンジニアリングが重要になってくるでしょう。

私の事務所がその名前の通り、「第7感」をインスピレーションにしていることもあり、リリース時からSketchUpのDiffusionを活用していますが、今後に大きく期待しています。Diffusionを使用すると、たとえば生成AIを用いた画像作成機能によってこれまで思いつかなかったようなさまざまなイメージがたくさん出てくるため、それを人間側が受けてどんなインスピレーションにつなげるのかということを考えたりしています。

SketchUpのDiffusion機能でイメージを生成

SketchUpのDiffusion機能でイメージを生成

当然、プランニングのバリエーションは一気に増やせるでしょうし、人間の力では生み出せなかったようなイノベーションも起こり得ます。もちろん、それを選択するのは人間ですから、やはりプロンプトエンジニアリングが重要なことは揺らぎません。

またAIは人間の機械的な作業や繰り返しの作業を自動化することにも役立つと思いますので、今後もAIのトレンドにはしっかりとキャッチアップしていきたいと考えています。

SketchUpを学ぶ若い世代にアドバイスをお願いします。

私は大学でSketchUpを教えるようになって長いですが、どうしてもその使い方やコマンドの説明といったことが中心になっています。教材としても予め与えられたものを使用するため、その通りに作れば形になってしまいます。

ただ学生たちに今後言えることとしては、形を作ったその先に何を作るのかを考えてほしいということです。バーチャルな世界のコマンドで作るものは簡単にできてしまいますが、リアルな世界に置き換えると、そこには先人の知恵や伝統的な技術、素材の種類、現場の構造ごとの知識などが必要です。それらを吸収するためにAIの力を借りてみても良いのではないでしょうか。

いきなりSketchUpという巨大なツールを渡されても、白いキャンバスに何を描けばいいのかわからないように、どんなものでも作れるがゆえに何をどう作っていいかわからないと感じる学生は多いでしょう。

だからツールとしての基本的な使い方を理解したうえで、作成したものを必ずリアルに置き換えることが重要です。そういったことも学生たちに伝えていきたいと考えています。

SketchUpでモデル作成、動画表示

プロジェクトのどの段階でもSketchUpを使うことができます。無料トライアルを開始するか、サブスクリプションでご購入をご検討ください。

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